ソーシャル・サポートネットワークとsense of coherence

9月17日に、聖路加大でポジティブサイコロジー勉強会があって、そこでは、Patient Reported measurement Information System (PROMIS)という米国で行われている主観的なヘルスアウトカムの測定ツールづくりについて紹介されていました。http://www.nihpromis.org/default.aspx
健康関連QOLも含めた主観的な健康評価の指標を統合してアイテムプールを作成し、項目反応理論を用いて項目特性値を算出していき、臨床評価に応用しよう、という取り組みで、これまでに開発された様々なスケールを集めているようです。
健康の定義としては、WHOの健康の定義に基づいていて、大きく、身体的、精神的、社会的とそれぞれに分かれていて、精神的健康の中に、数年前までは、エモーショナルディストレス、認知機能、ポジティブサイコロジカルファンクションという3項目があって、さらにポジティブサイコロジカルの中に、subjective well-being、meaning and coherence(spirituality)、mastery and control(self-efficacy)、positive impacts of illnessの4つがありました。
現在は、精神健康の枠組みが変わってしまって、ポジティブサイコロジカルファンクションという項目もなくなってしまい、感情、行動、認知という心理学的な枠組みになってしまっています。(self-efficacyは認知の下位に残っています)
なぜ消えたかは置いておいて、その消えてしまったmeaning and coherenceという用語で思い出したのが、このタイトルにあるソーシャルサポートについて、Scienceという有名な雑誌に載っていたジェームス・ハウスという社会学者の1988年の論文でした。House JS, Landis RL, Umberson D. Social relationship and health. Science, 241, 540-545, 1988.
古い論文ですが、おそらく当時としては相当画期的な論文で、ソーシャルインテグレーションや、ソーシャルネットワーク、ソーシャルサポートなどを総合して、ソーシャルリレーションシップと呼んでいて、これらと、死亡率について関連性を検討している論文のレビューになっています。その中で、ハウスはソーシャルリレーションシップと健康の間のメカニズムについて議論しています。
プロセスのメカニズムとして有力なものとして挙げられているのが、Antonovskyのsense of coherenceを強化することによるルート、と言うことが書かれていました。ハウスは、その時に、sense of meaning or coherenceと書いていて、有意味感の方を強調しているようにも見えました。しかし、上記のPROMISでも、meaning and coherenceと書いてあったので、これもおそらくは、SOCを意識しての記述であろう、と思ったわけです。

ただし、その後の実証研究、特に近年の研究では、ソーシャルサポート⇒SOCでなく、SOC⇒ソーシャルサポートとする研究が多くなっています。実際に私たちが行った高校生の縦断調査でも、因果の向きはSOC⇒ソーシャルサポートとなってしまって、もちろんその向きも理論的に間違っているわけではないのですが、SOCを育むのは厚い社会的な環境であることを考えると、ジェームス・ハウスが言うような、その逆が実証されても良いのかなとも思います。
そのためにはそうした先行研究で測定している個人が感じているソーシャルサポートだけでなく、互恵性や密度の濃さを含めたり、あるいは集団の特性として、つまり、ソーシャルキャピタルとして捉える必要があるのかもしれません。その場合は、おそらくはSOCは結果側に位置づくと思います。