sense of coherenceへの介入の可能性

先日SOC研究会があって参加をしてきました。
その中で山崎先生が、表題の発表をされていました。看護研究誌に載っていた特別記事に関する内容です。
http://www.igaku-shoin.co.jp/journalDetail.do?journal=33802
元はと言えば、昨年末に組まれた特集
http://www.igaku-shoin.co.jp/journalDetail.do?journal=33267
この最後を華々しく飾る予定だったのですが、期限に全く間に合うことができなくて、残念ながら翌々月の号に載せてもらうということになったものです。ただ、この内容の論文掲載について、私は大変に推していて、医学書院の担当の方にも是非にと念を押しておりました。(私は介入研究は関心はあるのですが、自分自身では行ったことがなく、誰かの研究を手伝った程度で、偉そうなことが言えないのですが、)山崎先生はCDSMPという介入プログラムを国内で推進していく立場にあるので、そのアウトカム指標の一つとして位置付けているSOCについて、色々考える機会があり、良く議論をされていることを知っていたからです。
 看護研究という雑誌であるからして、読者は看護系の研究者が多い中、やはりSOCをどのようにすればあげることができるのか、と言う点について大変に関心を寄せている方が多いように思われ、この特集の最終章を飾ってほしかったのでした。
 CDSMP自体はSOCの向上ではなく、慢性疾患患者一般に共通する健康管理のセルフエフィカシーを向上させるのが目的として開発されたプログラムのようです。しかし、実際にSOCが上昇していました。ではSOCがどうして向上するのか、ということについて原稿の中で議論されています。ポイントは大きく2つあるとしています。
1)参加者間の相互作用、グループディスカッションが重視されているということ
2)日々の生活の問題とそれへの対処がその題材となっていること
これは、お互いにまねをしたり学んだりする「モデリング」そして、教えたり援助したりすることこそが教わること、援助されることであるという「ヘルパーセラピー原則」と呼ばれている、いわゆるセルフヘルプグループにおける機能がCDSMPにもあることを意味していて、これがSOCの処理可能感や有意味感に影響している可能性があることについて言及しています。
私が考えるには、山崎先生も本稿の中で言及していましたが、こうした機会がある程度(6週間)繰り返されるということがポイントのように思います。自分の人生や生活を見つめ直して、自分がそこに主体的に関わっていると思えること、や、困難をうまくのりこえている、と言うような確認作業が、繰り返された、と言うことがSOCを向上させることにつながったのだと思います。
SOCは30歳で固定化してしまう、という言説については、以前書いたように、ほぼ過去のものになりつつあると思います。http://d.hatena.ne.jp/ttogari-tky/20100805/1280983244
先日のSOC研でも、筑波大学の大井先生のつくば市民約2万人を対象とした大規模調査でも、横断データですが、やはり年齢が上がるごとにSOCが向上しているということが示されていました。
ただ、Antonovskyが言うように、人生と言うのはストレスだらけで、ストレッサーがあまねく存在していく中、うまくクリアしつつ生き抜いていく、と言う経験がSOCを向上させることにつながるのであって、年齢にしたがって上昇していくということも、結局そういうことなのだろうと思います。
やはり、山崎先生の研究でも、介入終了後1年では元のレベルに戻ってしまったとのこと、そうそう簡単にSOCが向上させることは簡単ではないと考えたほうが良いとも思います。
しかしよくよく考えれば、SOCを簡単に上げることができたら、これこそが全くもってまやかしというか、怪しげなもののようにも思えてきます。何か特殊な専門家の特別な技術、あるいは呪術のようなもので上げるようなのではあまりにも非科学的な話です。しかし、SOC自体がきわめてスピリチュアルなものなので、そう考えている人も少なくないかもしれません。
個人的には、上がるのはわかるが、一朝一夕では、なかなか上がらないからこそ研究のやりがいがあるのではないかとも思います。魔法の弾丸、特効薬では上がらなく、じわじわと、例えば根気のいるケアによってもたらされるような、そんな経験を通じてしか上がらない、SOCというのはそういう類の能力であろうと思います。
そんな複雑で難解で悠長な概念にとらわれていたら時間がもったいないし、他のテーマや概念にした方が良い、と思う人もいるかもしれませんが。