汎抵抗資源と汎抵抗欠損

先日質問を受けた上記の点について、もう一度整理しておきたいと思いました。
健康生成モデルにおける汎抵抗資源とはストレッサーを対処するときに動員するさまざまな資源のことを指します。SOCはこの資源を動員する動員力でもあるとされており、類似のHobfollの資源理論のキーリソースとも位置づけられるとも言われています。アントノフスキーが着眼したのは、こうした汎抵抗資源が豊富にあったり、すぐに動員できる状態にあると、ストレッサーに対処しやすく健康であるということだけではなく、汎抵抗資源が欠落している場合のことです。つまり、汎抵抗資源は豊富にあればストレスに強いのですが、汎抵抗資源が欠ける、つまり汎抵抗欠損が生じると、それがストレッサーになる、と言うことでした。
例えば、我々がストレッサーとして感じる出来事のなかで、慢性ストレッサーと呼ばれるものがあります。この代表が心理社会的な職場環境で、カラセックのモデルなどが有名です。あるいは努力ー報酬モデルなども有名です。これらの中で、サポートとか、自由裁量度とか、適正な仕事量や、努力と報酬の均衡といったことが大事で、こうしたものが崩れた状態がストレッサーになると言われています。こうした、ソーシャルサポート、裁量度があること、適正な仕事、努力に見合った報酬は、健康生成モデルでは、汎抵抗資源になります。こうしたものが崩れることつまり資源が欠損すること(=汎抵抗欠損)がストレッサーになると言うことになります。
職場環境に限らず、汎抵抗資源は、社会経済的地位や、経済状態、ソーシャルネットワーク、遺伝的な要因、心理学的な特性などもあげられていますが、こうしたものが欠損することがストレッサーになりうると言うことになります。例えば、収入が下がったとか、ネットワークが狭まったとか、そうしたことがストレッサーになります。そんなとき、SOCが高い人は、使える資源を使って処理をします。収入が下がると確かにいろいろ購入できなくなって、節約生活を始めなければ行けないなどストレスフルかもしれませんが、SOCが高い人は持ち前の明るさをもって、節約生活を楽しむことにしたとか、仲の良い友人から、これまで浪費していた部分を解決するアドバイスを得てこれまでと変わらない生活をすることができるようになったとか、そんな経験をすることになります。
有信堂高文社の「ストレス対処能力SOC」(2008年)のp41~42にはその辺を書いているのですが、恐らく、こうしたストレッサーを成功的に対処する経験そのものの中にもSOCを育む3つの良好な経験を含んでいる可能性があり、成功的な対処によりSOCは向上するのではないか、と述べました。つまり見方の問題で、このストレッサー処理のプロセスには2面があるのではないかと。刺激・ストレッサー対処という側面を見れば、処理できて健康になっていると見て取れるのですが、資源を動員して対処し乗り越える経験という側面をみれば、良好な経験をしておりSOCが育まれる基礎になっているのではないか、と言うことです。健康生成モデルの左(SOC形成)と右(SOCの機能)とは時間的な軸もあるかもしれませんが(左から右へ)、例えば成人期になっても、汎抵抗資源からSOCへの形成のプロセスは、ストレッサー処理の右側のプロセスの別の切り口としても見ることができるのではないかと思われます。

ストレス対処能力SOC

ストレス対処能力SOC