サルートジェニック・カフェの取り組みを聞いて

聖路加Positive Psychology勉強会に参加して来ました(http://positivephealth.blogspot.jp/)。筑波大学産業医学の平井先生のご報告でした。以前に公衆衛生学会の自由集会でご紹介頂いたものの、その後、というような位置づけでした。ある企業の従業員ほぼ全員を対象として何回かに分けて、カフェ形式で働きやすい職場作りについてカフェ形式での意見交換と発見を促し、その実現につなげていくことを目的としているようです。サルートジェニックといっているだけあって、健康生成論的な観点での意見交換を促すというのがねらいのようでした。
ポイントがいくつかあって、カフェ形式である、ということと、意見交換の内容・方法と、アウトカムの設定と、従業員側の参加意図と、その辺りについて明確にしておく必要がある、というのが結論でした。というのも、平井先生のほうで、毎回測っている満足度が高くないと嘆いていたためです。(ただ満足度という指標自体に左右される必要はない、というか、満足度自体が何を意味するのかわからないきわめて曖昧な指標なので、もっとほかの指標を確認した方が良いのではないかと個人的には思いましたが)
まずカフェ形式については私は詳しくはないのですが、その定義はかなり緩い固まっているのかはっきりしませんで昨日の議論ではグループワークレベルのものも含むとか含まないとかそんな話でしたが、少なくともかなり少人数のグループでしかもグループ構成員はセッションの中で流動的になっている、という特徴があるようです。ただ、介入するにあたっては、グループの人数や、構成員の位置づけ、討議時間、各グループにおけるテーマをはじめとした役割や、そうしたことによって議論内容や気付きはずいぶん違ってくるようにも思いますが、その辺りについてのストラテジーを十分に定めた上で臨む必要がありそうでした。
次に意見交換の内容・方法については、働きやすい職場作りというテーマで、出て来た意見を、実現可能性(すぐできるか)と優先性と2軸で整理するということにしていて、納得できました。ただ中山先生からもコメントが出ていましたが、もう少しテーマを絞ったり、テーマをいくつか細分化してそれぞれのいくつかのテーブルごとに割り当てる、といったことをしても良かったのではないかと思いました。また、意見には批判したり論破したりしない、「〜するな」ではなく「〜できる」という言葉で、などをルールにしていて、グループセラピーとかAAなどでの要素を入れていたりその辺りは大変に良く考えられている取り組みだったと思いました。
アウトカムの設定については、ここがまだトライアル調査段階ということで、話によると楽観性とSOCになっているようで、本来狙っているような働きやすい職場という、もっと心理社会的職場環境にアプローチするようなセカンダリアウトカムの設定が必要と思いました。また、先に述べたように満足度ではなくて、楽しさとか、面白さとか、ためになったとか、プロセス評価の指標を凝らしていく方が建設的であるように思われました。また話を聞くと、一度のカフェを行なって、その後は特に介入はしないとのことで、それはカフェの経験を職場にもって帰ってもらってそれがある程度恒常的に職場生活の中に持ち込まれることを狙っているためと。であれば、その辺りが可能となるようなストラテジーも介入の中に含めていくことが望ましいのではないかと。確かに大人数で議論して気づきを共有し、共感するという経験はインパクトがあって、個人個人に個別でカウンセラーから気付きがうながされる、という経験と比較すると、それは計り知れないほど大きいようにも思います。しかし、それが身につき定着し、見方が変わり、生活に生かす、というところまでどこまでつながっていくのか、そうした基礎的な検討も必要と思いますし、そのエビデンスに基づいてさらに方法を検討していく余地があるのではないかと思いました。
最後に従業員側の参加意図です。当初研修の名目で強制参加で、その後は希望制になったとのこと。しかし希望制になってからのほうが満足度が低かったとのこと、従業員側の参加意図と、企画側の意図との乖離がみられている可能性がありました。これは、このサルートジェニックカフェとその意義についてどこまで参加者側に事前に理解されているのかというところが問題で、このサルートジェネシス自体が、これまで行なわれて来た職場生活改善や職場安全、健康職場というところとずいぶん異なるアプローチである可能性について事前に考えておく必要があるのではないかと思いました。
つまり、従前のアプローチは、予防という観点で、危険なものを取り除き、体に悪いものは改め、栄養過多にならず栄養不足にならず、適正体重を守り、などなど。。リスクファクターの除去と一言で言えば言えなくもないのですが、「リスクファクターの除去的発想」にとらわれている、ということまではなかなか市民は気づいていないと思われます。これまで散々医者や医療関係者、教育関係者にそのように言われてきているからです。そこで、きゅうに、サルータリーファクター探し、ということを言われ、それをカフェでするのですが、出て来たものが、何のことはなかったり、当たり前なことだったりするかもしれませんが、実はその発見は、これまでの発想では出てこない大事な者なんだ、ということまで実感できないのかもしれないと思いました。つまり、これまでの発想はそれはそれで大事なのですが、別の見方で職場を考えてみようということを事前にきちんと頭の中で整理させておかないと折角の発見が忘れ去られていくようにも。。この辺りがかなり大事だし、事前の説明もよほど上手くやっていかないといけないだろうと思われました。