optimismとsense of coherence その3 〜optimismの応用可能性について

先日の聖路加Positive Psychology勉強会で報告したことの感想の続きです。資料は以下のサイトにあります。

http://positivephealth.blogspot.jp/2012/10/optimism.html

Carver CS, Scheier MF, Segerstrom SC. Optimism. Clinical Psychology Review, Volume 30, Issue 7, 2010, Pages 879-889
感想を忘れないうちに、と思いながらもずいぶん日が経ってしまって、いろいろ考えたことを忘れかけているような気もしていますが、その3にうつります。
応用、となると、介入プログラム、と考えますが、その前に日本においてこの概念を適用、というか受け入れることはできるのかについてです。「楽観」という日本語の文字通りに受け取るとお気楽であまり細かいことを気にしないような人のように受け取る人が多いかもしれません。「将来に良いことが起こると期待する」ことはお気楽なことなのか、という話で、お気楽な場合もあるし、うまくいくだろうという確信も含まれるだろうし、いろいろな要素がありそうなのですが、困るのは、極端にお気楽すぎて周りを顧みなくて迷惑かけていることもわからないような人が含まれてしまうのではないか、ということが挙げられると思います。実際に「あなた楽観的だね」という言葉のウラの印象にはそうした、むしろネガティブな響きを含めることもあるかもしれません。
実際に上記の論文で触れられていましたが(資料には入れていませんが)、楽観性が高い場合、ギャンブルにはまりやすくなり、かつ抜け出しにくくなる、という報告もあるとのことです。また、実際に、前回に紹介したLOT−R日本語版の紹介記事(坂本、田中. 改訂版楽観性尺度(the revised Life Orientation Test)の日本語版の検討、健康心理学研究, 15, 59-63, 2002)には、日本人を対象とした調査データで因子分析を行った結果、他の国の結果とは異なり、悲観的項目と、楽観的項目は分けられて、楽観性、と悲観性と2因子から成り立つのではないかと提案しています。つまり、楽観と悲観は表裏一体の、いわゆる一次元的な概念ではなくて、楽観性とは別に、悲観性(それは、何をやってもうまくいかないと思うような傾向を意味しますが)という因子があって、別々に存在しうる、いわば別次元の概念であるのではないか、と言っています。たしかに悲観的でないこと、つまりそうしたネガティブなことを考えないことは、楽観性があるということと異なると。会の議論で中山先生も仰っていましたが、悲観的でないことは、楽観的であること、というよりもむしろ良いことなのではないか、少なくとも普段使っている日本語の用語的にもそう取れるのではないか、と。悲観性を低めることが大事なことだという議論もでき、そうなると受け入れやすくなるのではないかということです。こうした分析結果のもとで、悲観性に関する基礎的調査研究はまだそれほど多くなさそうですし、私が紹介した上記の論文では、資料にあるように一次元性、悲観の反対は楽観であるという立場でレビューされ論じられていましたし、十分に行われていないようにも思われます。特に日本でそうした、二次元的解釈が受け入れられやすい、という根拠が増えれば、悲観性に関する研究が必要になってくるのではないかとも思われました。
次に、介入については、セリグマンらにより悲観性が強い状態から楽観的な状態に移行することができるプログラムが開発されていて、下記に示す本などはlearned optimism(学習性の楽観)という英題が挙げられていて、ぺシミストがオプティミストになる方法が詳細に紹介されています(この本は1991年の刊行ですが最近の本でも紹介しています)。実証研究を重ねているようで、Carverら(2010)でもレビューされていました。あまり詳しくはここでは述べませんが、非常に簡単に言うならば、ABCDEモデルといって、A(Adversity:困った状況)、B(Brief:思い込み)、C(Consequence:結末)、D(Disputation:反論)、E(Energization:元気づけ)で、ABCについて自分の経験を思い出して書きだして、それに対してDを行なって、それも書き出し、Eを行って書き出し、それを何度も読む、というような方法を繰り返すこと、です。その際に、反論を行う上でいくつかのテクニックがあったり、パートナーに聞いてもらうなどの方法を用いることになるようです。悲観的な状態からは脱却できることがわかっていて、明確な介入方法もあって、スポーツ選手をはじめ様々な方面で使用されているようです。こうした、明確な介入方法があり、実際に応用されているという点では、SOCよりも二歩も三歩も先に行っているように見えます。悲観、楽観の適宜が端的で明確であるし、容易に変われるんだ、という定義でもあるのでなおさらであろうと思います。
ざっと3回にわたって、感想でした。OptimismについてはSOCと並んで、同様の機能をもち、多くの研究がおこなわれている、というくらいの知識しかなく、いつかじっくり考えてみたいと思っていて、今回の発表の機会を得て、ある程度整理ができたように思われます。もっといろいろ感じたことがあったようにも思うのですが、すぐに思い出せず、また思い出したら、今後書き連ねたいと思います。


オプティミストはなぜ成功するか (講談社文庫)

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