Optimismとsense of coherenceその1 〜Optimismの理論について

先日聖路加のPositive Psychologyの勉強会があって、Optimismの報告をしてきました。
http://positivephealth.blogspot.jp/2012/10/optimism.html
論文は以下です。
Carver CS, Scheier MF, Segerstrom SC. Optimism. Clinical Psychology Review, Volume 30, Issue 7, 2010, Pages 879-889
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S027273581000019X

これまでに幾度か健康に関連するpositive psychology概念について調べていてどうしても外せないのがOptimismで、いわゆるキーリソースとして概念紹介の本にはほぼ必ず出てくるほか、SOCと並んで扱っている研究もいくつかあって、いわゆるレジリアンス因子として扱った先行研究の量についてはSOCを凌駕するものだったので、浅く勉強はしていたものの、きちんと整理しているレビューを読んでみたく、2年位前のレビュー論文を見つけたので読んでみたのでした。合わせて、Positive Psychologyの生みの親?でもあるセリグマンもこのoptimismを掲げている人の一人でもあり、彼の著作のいくつかは日本語にもなっていて合わせて読んでみました。
感想としては、大きく1理論について、2測定について、3実践への応用についての3つに分かれそうなので、分けて記したいと思います。
今回は理論についてです。
Optimismはexpectancy-value theory(期待ー価値理論)にのっとった概念とのことでした。期待価値理論は50年以上前に出された動機づけに関する心理学の理論の一つで、保健行動領域でも扱われるローカスオブコントロールや、バンデューラの自己効力感にも影響しているもので、私は詳しくは調べきれていませんが、時代とともに微妙に扱われ方も異なっていて、いまだに有力な理論としてあるもののようです。
私のつたない理解は、目標達成の動機づけの要素として、価値(目標がその人にとって重要なのかどうか)と期待(目標達成への信頼confidenceとか主観的な成功確率にかかわるものとかいろいろ)がある、という考え方で、ローカスオブコントロールでは、内的統制的な認知が期待に関与するが外的統制のほうはしえない、という形、自己効力感のほうは、自己効力感自体は予期(期待)信念を意味していて、結果予期と効力予期の両者からなるもので期待ー価値理論における期待部分についてより深化させたものとも捉えることができるのではないか(もちろんそれだけではなくほかの理論も複合したものですが)、ということで、脈々と行動に関する諸理論の中に息づいている、という理解です。。。
今回読んだCarverら(2010)の話でも、Optimismもそうで、「期待」とは目標達成のconfidenceであるという定義というか前提のもと、このconfidenceやその反対のdoubtの適用領域の文脈として非常に狭いもの(たとえば食材を買いにスーパーに行くability)、中範囲(例:豪華な食事を準備できるability)、広い文脈(例:優れた主催者として社会的に高い評価を得るability)が挙げられるが、Optimismやその反対のPesimismは、広い文脈、一般的な文脈におけるconfidenceやdoubtであると。さまざまなLife Changeに直面した時に楽観性のある人は信頼的であり持続的であると解釈できる、という理論的な背景があるとのことでした。
つまり、Life Changeというくらいの大きな出来事に直面した時に楽観性のある人はうまく乗り越えていけるだろうとか、うまくいくだろうとか、そうした期待を持ちやすい、ということで、それによって目標達成(うまく乗り越えること)につながる、ということになろうかと思います。自己効力感の理論における特殊性と一般性の話に近そうです。この場合Optimismの定義として「良いことが起こると期待している人」がOptimismが高い人、というように言えそうです。
今回のCarverら(2010)の論文には尺度の紹介の部分と介入の部分でしか出てきませんでしたが、セリグマンの本を読んでいて、彼の提唱する楽観性は少し異なる概念のようです。セリグマンの尺度については次の機会にするとして、彼は楽観性を出来事の説明スタイルの一類型をもって説明しています。良い出来事、悪い出来事それぞれの原因について、時間と空間で整理しており、時間は永続性ー一時性、空間は普遍性ー特殊性の軸を考え、良い出来事については、永続的・普遍的ととらえ、悪い出来事については一時的で特殊であると捉える傾向が強いほど楽観性が高いと評価できるとしています。元は学習性無力感の研究で、学習させても無力感に陥らない対象があって、その要因、ということで楽観性という要因を見つけたとのことですが、著書のLearned Optimismというタイトルにあるように、学習性の楽観性としているようです。いくつかの研究で指摘されているのですが、このセリグマンの説明スタイルによる楽観性と、前者の期待価値理論に基づく楽観性と測定方法の違い以上に概念的に区別している場合もあるようです。後者は楽観性でなく楽観的説明スタイルとか楽観的原因帰属傾向とか。
ただし、このレビュー論文で見るように、ほとんどの楽観性Optimismに関する実証研究は前者に基づくLife Orientation Testと呼ばれるスケールで測定されている概念で捉えたもののようです。スケールは次回に触れますが、Positive Psychologyの代表選手のようなOptimismであったのすが、こうして調べるとどうも各研究ではその背景理論的にばらつきがあるのではないか、とも思えてきました。
説明スタイルにしても、期待価値理論にしても、SOCと相関係数はありそうですが、背景理論的な重複を考えてみました。まず、「良いことが起こると期待すること」は、あらゆる日常生活の行動を対象としている一般性セルフエフィカシーに近いともいえるかもしれません。SOCとは似ていると呼ばれているセルフエフィカシーですが、細かく見るとこれらに共通する期待価値理論と、SOCの背景理論とはずいぶん異なっているように思います。SOCは行動の予期信念ではなくて、3つの下位感覚の把握可能感、処理可能感、有意味感なのであって、ストレッサー対処を見据えた世の中の味方考え方というところであろうかと。また、こうした理論的背景にも関連して、山崎先生の論でもあるのですが、特に前者の期待価値理論的Optimismについては個人内部における性格特性であり、その機能としても行動を目標とする(ある意味で個人主義的な)概念であることも否めなく、時間空間的な一貫性の感覚を謳うSOCとは一線を画しているようにも思えました。セリグマンの楽観的説明スタイルのほうは、近いようにもみえましたが、方や経験に対する「説明スタイル」と、方や直面するストレッサーに向けた比較的前向きな「生活・人生への志向性」とでは性質としては異なるのではないかと思いました。
他方で、Optimismが高い人は、目標達成に向けてさまざまな方面で努力をし続けれるし、柔軟に対処方略を使い分ける傾向にあるとのこと、個人の内面にある(漠然とした)生きるうえでの原動力であるとも言えそうです。結果的にさまざまな機能をもつのかもしれませんが、あくまでも結果であって、理論としてはシンプルに、良いことがあるという期待、というところでとどまっているようです。SOCの場合は、どのような原動力を発揮するのかというところで3つの下位感覚、把握可能感、処理可能感、有意味感の機能が明確で、資源やストレッサー、ストレスプロセスを巻き込んだ理論が出来上がっていて、クリアになっています。結果としてもたらされるストレッサー処理、レジリアンス因子としての機能は共通するとみてよいとは思います。
Optimismの良さは定義のシンプルさなのではないかと。概念として非常にわかりやすく扱いやすいということだと思います。それでいてレジリアンス的機能ももつ。また、セリグマン先生たちが取り組んでいるように、悲観的な人が楽観的になることができるし、そのプログラムもできている(次の次の機会に触れたいと思います)というところかもしれません。

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