sense of coherence スケールの下位尺度別の利用について その2

SOCスケールの下位尺度別の利用については、因子構造や内的妥当性のレベルでは可能であるという点について述べました。
しかし、そもそも下位尺度別に使用する意義がない限りにおいては検討しても仕方ないわけです。何でもかんでも下位尺度別、という訳ではないので。
例えば、SOC自体は把握可能感、処理可能感、有意味感のそれぞれの機能を有してはじめて一つの概念として位置づき機能するということも考えられます。また、Antonovskyが言うように、これらの概念間では密接な関連性があって、特に有意味感が重要で、有意味感の変化が他の下位概念の変化に影響を及ぼす可能性があるともいわれています。
では、そんな関連性があるのならば、三つの下位尺度で別々に検討する必要はないのではないか、とも考えられます。しかし、そうではなく、こうしたSOC自体が持つ機能のメカニズムを説明する目的での理論的なアプローチの一環として、下位尺度別の検討は重要になってくると思われます。ただし、きわめて基礎的な研究になるので、その成果を実践に移すには、さらなる研究の積み重ねが必要になってくることを念頭に置かねばなりません。たとえば看護学系の研究は実践的示唆、看護への示唆が重要になってきます。個人的には看護学領域における基礎研究は看護学自体の発展においてきわめて重要と思いますが、あくまでも看護学は実践科学の領域である(医学でいうところの臨床医学領域のみである)という考えの先生も少なくないとも聞きます。したがって、諸議論あるとは思いますが、個人的には、こうした研究を看護系をはじめとした実践重視の領域で行うのはよほど理解のある先生の元でないとやりにくいと思います。

実践的な意味を持つ研究としては、各下位尺度を左右する要因の探索、あるいは、各下位尺度に対する介入を念頭においた研究であろうかと思います。それぞれの下位尺度は特徴があって、これらの作られ方も異なってきます。こうした点を踏まえての研究は非常に実践的な示唆に富むことが考えられます。SOC自体は、身体的、精神的な健康に導く因子である一方で、ある意味スピリチュアルな健康を意味している部分が存在しているとも考えられます。SOCを従属変数とした研究が増えてきているのも、予測因子としての機能に関する一定のエビデンスがある一方で、Quality of Lifeの一角をSOC自体が占める可能性を認める人が多くなってきているからであろうかと思います。

まとめると、上記のいずれの検討もきわめて重要な示唆になりうるということから、下位尺度別の検討も必要であるといえると思います。もちろん我が国におけるSOC自体の研究の蓄積も北欧に比べるとそれほど多くないことも踏まえるとSOCという一つの概念で検討することも必要です。