健康生成論とヘルスプロモーション

8月27日(金)に金沢大学の健康増進科学センターの会議で報告をしてきました。聖路加の中山先生や東大客員の河合薫さんも一緒でした。
現在金沢大の健康増進科学センターでは中山先生は客員教授、私は客員准教授になっており、先日のジュネーブの学会の渡航費も負担していただいているので、そこで議論されていた内容も含めて報告をしました。
健康増進科学センターは、昨年より発足し、余りお金にならなく地味な分野でもある健康科学の領域にしては確かに画期的なセンターです。スタッフは教授は兼任になっていますが准教授以下は専任のスタッフがそろっていて非常に期待されるセンターです。しかしヘルスプロモーションの分野の実践は簡単には結果が出なく、腰を据えてやっていかなければいけないとも思います。

金沢大学では私の母校でもありますし、健康科学や保健学という学問については大学院の時にはかなり曝露していた領域でもあるので、それを金沢大学に還元したいと思いながらの報告でした。

スタッフは放射線科学やリハ、看護系といったコメディカルの方々が中心で、どちらかと言えば医学サイドにいる人が多いようでした。したがって、そもそも、健康生成論やsennse of coherenceについての知識、ヘルスプロモーションの歴史とオタワ憲章やバンコク憲章に見る世界の動きに関する知識など、前提になっている基礎的な知識について伝えるところから始めないといけませんでした。
20100827健康生成論とヘルスプロモーション.pdf 直

今回報告するにあたって、色々ヘルスプロモーションとサルートジェネシスについて書かれた論文を読み直していました。結局のところAntonovskyが訴えているのは大きく2つであるようです。

1980年後半のオタワ憲章やヘルシーピープルの見方は結局のところは「疾病予防」中心の見方で、生活習慣に関連するリスクファクターに着眼し、それを除去する疾病生成論的な域にとどまっており、健康生成論的な部分には到達していない
sense of coherenceを軸とした健康生成モデル自体は非常にヘルスプロモーションと親和性があり、今後一層着眼していくべき

ということです。
これに対してオタワ憲章の起草に関わったキックブッシュさんは反論しています。反論の内容はファイルに示した通りです。
現在のバンコク憲章になって、より健康の社会的決定要因に着眼する形になったのですが、ヘルスプロモーションにおける「健康」自体の定義は以前と変わっていないことを鑑みると、健康生成論がその骨組みとなり、血肉化されているとはまだ言えないのかもしれません。無論、健康生成論的なアプローチを実践している方は増えてきていると思います。