post traumatic growth/ stress related growth とsense of coherence

現在放送大学の教材を作っていて、そのなかの「ストレスに向き合いつつ健康に生きる」という章を担当しています。主任の井上洋士先生より、そこで、post traumatic growth(PTG)或いはstress related growth について言及してほしいと言われていました。
post traumatic growth或いはstress related growthは、簡単に言えば、ストレスを経験することで、世の中の見方が変わり、例えば、それまであまり見えていなかった家族や友人を大事にしたり、仕事よりも趣味を大事にしたり、生きていること自体に価値を置いたり、とにかくそういった衝撃的な経験によって枠組みの変化が生じます。そうした人間関係の強化や精神的な強さ、ストレスを乗り越える技術が強化され、成長するというものです。(Shaefer, J,. & Moos, R. (1992). Life crises and personal growth. In Caroenter, B. (ed.), Personal coping: Theory, research, and application. Westport: Praeger, pp. 149-170.)
ストレス関連成長を促す3つの要素があるようです。1つ目はその人の持っている性別や性格といった特性で、男性よりも女性の方がストレス関連成長は大きいと言われている。2つめは、衝撃的な出来事に対するポジティブな再意味づけができるような対処の戦略を持っているかどうかです。3つ目は出来事自体の特徴です。つまり、その出来事がどの程度衝撃的でコントロール不能なものであったか、ということです。Tedeschiらは、その出来事が痛ましく、解決困難であるほど成長が生じるとも言っています(Tedeschi, R.G., & Calhoun, L.G. (1995). Trauma and transformation: Growing in the aftermath suffering. Thausand Orks: Sage.)。

調べるほど確かにSOCの形成の話にとても似ていると思いました。実際に、以前に述べた聖路加の中山先生が行なっているPositive Psychology 勉強会(http://d.hatena.ne.jp/ttogari-tky/20100804/1280895804)で発表した、Almedom
20070124SOC&resilience.pdf 直
の論文や、Aspinwallの論文
7月23日PPの会.pdf 直
でも並べられて類似のものと扱われていました。

ただ、大きく違う点としては、Tedeschiが言っている、「その出来事が痛ましく、解決困難であるほど成長が生じる」と言うことなのではないかと思いました。
SOCはそのようなことはなくて、痛ましくなくても良い経験ならば成長するとするわけです。ここからは私の感想ですが、痛ましい経験と言うのは、わかりやすい経験なのかもしれません。SOCも成功経験が重要な形成の要因(とくに処理可能感の形成)になるのですが、動員できる資源を発見し、実際に動員することによってストレッサーを処理できたという経験に焦点を当てています。そして、それは過大なストレッサーでもダメですし、過小なストレッサーでもダメで、適度なストレッサーである必要があるとAntonovskyは言います。このあたりで、とにかくうけるストレッサーは厳しければ厳しいほど良い、というようなところから一歩進んで、そのストレッサーをどのようにのりこえるのかが問題であるとし、ある程度のレベルならばストレスの大きさ(厳しさ)は問わない、と言った形に一般化されているのだと思います。
また、結果形成への参加と言う経験がSOC形成には重要(とくに有意味感の形成)とAntonovskyはいいます。PTGでは、自分の人生の構築に自分自身が参加しているという経験を通じて強くなっていきます。こうした、不条理な経験を経たのちも一歩一歩確かめながら進んでいくことにより成長するPTGの話を、普段の家庭生活や職場での生活の中で、自分自身が何かの決定に際して参画しているという経験の積み重ねがSOCの形成にとって大事であるというように、PTGに見るような極端な状況から日常生活の端々においてもSOCの形成につながる経験の可能性があるという方向に一般化しています。
PTGスケール自体は、人やモノの見方のちょっとした変化、しかもかなり具体的な変化を測定する点で、SOCよりもわかりやすいとも思いました。SOCはかなり抽象化され、本人の中で血肉化された「志向性」になるので、わかりやすさの点ではPTGに軍配が上がりそうです。(ただ、PTG自体の安定性については今後の検討が必要。)したがって、PTG→SOCという向きも考えられるのではないかと思います。もともとSOCが高いと、PTGも進みそうで、SOC→PTG→SOCなどといった因果の流れも期待できるのではないかと思いました。