第21回IUHPEでの健康生成論やsense of coherenceの取り上げ方について(その5)

以降は、今回の会議で感じた私の個人的な感想を述べたいと思います。
今回第21回の会議における健康生成論とSOCの位置づけを考えると大きく2点が考えられました。

第1に健康生成論やSOCに関する研究の潜在化です。つまり、これまでは、その学問的立ち位置について研究者間で十分なコンセンサスが得られていなかったことから、健康生成論とは何か、あるいは、SOCとは何か、という観点の基礎研究、いわば健康生成論のための研究や、SOCのための研究が行われ、学会などでもその名を冠するセッションがもたれてきたように思われます。しかしながら、こうしたスタンスは、前回第20回大会で一つの到達点を迎えたのではないかと思われました。今後の健康生成論・SOCの有り方としては、健康生成論・SOCに関する基礎研究から応用研究に、すなわち、他の研究目的のために健康生成論やSOCを用いて、より説明可能にし、評価や介入をより可能とする糸口を提供する理論・概念としての有り方に進化していくのではない課と思います。また、これは、今回のIUHPEにおける報告に限らない、国際的な研究動向としても言えると思います。
 第2に、第1の点と関連しますが、ヘルスプロモーションに関する取り組みにおける、基礎理論としての健康生成論や健康生成モデルの位置づけを明確にした報告が多くありました。これは資源と能力へのアプローチへの焦点化を図った、sub-plenaryセッションでよりはっきりしたと言えます。健康生成論的立場では「疾病予防」という用語はなく、あくまでもそれはリスクファクター除去を念頭に置く疾病生成論的な考え方であるとされています。こうした観点から、このsub-plenaryセッションでも極力「予防」という用語は使用していませんでした。その代り、健康生成論における健康をつくる因子(健康要因)として重要な位置にある「資源」と、資源の中でも個人内のいわゆる内的資源に相当する「能力」に着眼したアプローチの有効性について明確になったと言えます。
 また、ヘルスリテラシーは、健康生成論的にも有力な「資源」あるいは「能力」であるという位置づけが明確になされていました。さらに、資源間の均衡を調整する役割としての鍵となる資源でもあるSOCの役割と意義についても、労働分野における報告で大きく取り上げられていました。