salutogenesisとヘルスプロモーション

SOCとヘルスプロモーションという関係を考えると、風が吹けば桶屋がもうかるというような少し離れた関係になるようにも思われる。
SOCはAntonovskyが提案した健康生成モデル(salutogenic model)の中核概念で、このモデルでは、大きく2つのことが示されている。1つは、汎抵抗資源と呼ばれるストレッサー対処に必要な資源によって提供される3種類の良質な人生経験によってSOCが掲載されることが示されている。2つめは、SOCはストレッサーに遭遇すると汎抵抗資源を動員してストレッサーの処理を行い、うまく成功すると、より身体的に健康になり、同時にSOC自体も強化されるという図式である。
この健康生成モデルは、サルタリーファクター(健康因子)による健康生成の過程が描かれていて、健康になる、ということは何なのか、何が健康を作るのか、そしてそもそも健康とは何なのかを考えさせてくれる。
これまでの疾病生成モデルでは、病気になると言うことは何なのか、何が病気を作るのか、そもそも病気とは何なのか、というところを突き詰めていたことに対応する。
そういう意味では、健康づくりとは何なのか、というヘルスプロモーションの基礎にあることが良く分かる。

A salutogenetic interprication of the Ottawa charter, Health Promotion International, 23(2), 190-199, 2008.という記事がある。ここではIUHPEでもおなじみだったEriksson & Lindstromらが論じていて、オタワ憲章の概念、意図、原則、価値と一致するという話をしている。(ただし、具体的にどこがどうなのか、議論できていなくて、自分たちグループの仕事の紹介の方が大きくなってしまっている印象も否めない。)
私の感想では、オタワ憲章の第一に健康の必要条件の確保という項目が上がっている。平和や住居、教育、収入、安定した生態系、といった環境の整備を指す。ここが非常に健康生成モデル、そして健康生成論と大きくリンクするところなのであろうかと思う。もうひとつ、能力の付与という部分があって、個人のスキルや情報アクセス、人的な環境といった部分への着眼があり、5年前にバンコク憲章として改訂された際にここにはヘルスリテラシーという能力概念が盛り込まれた。Antonovskyが、健康生成モデルの中でSOCに着眼した過程と非常に似ていると思われる。
前者の健康の必要条件というのはある意味当然のように思われるが、リスクファクターを取り除くという観点ではないあたりが非常にサルートジェニックな発想であろうかと思うし、バンコク憲章の改訂でも健康の決定要因への投資が最重要課題とされているあたりでより強化されていると受け取れる。

実は8月20日(金)に大阪大学でヘルスプロモーションと健康生成論、sense of coherenceというようなタイトルで国際ミニシンポジウムが行われることになっていて、私は自分のデータの分析を紹介することになっており、山崎先生は、まさにこのテーマで話題提供することになっている。具体的にどのような議論になるのか楽しみである。