sense of coherenceとResilience

両者について、どう違うのか、といった話を良く聞きます。それだけでなく、SOCに類似する概念は多々あるだろうが、そういった類似概念とSOCはどう違うのか、という点について、学会でも質問されますし、論文の査読者からもよく指摘を受けます。
そういう時は、山崎先生の言を借りて、「sense of coherenceは、他者や周囲のモノに対する信頼だとか、あてにできるだとか、極めて生活環境とのかかわりが強い概念で、そういった空間的な信頼ばかりか、時間的にも将来や過去に対する信頼や自信といった部分も含まれる、という点で、きわめて環境に近い概念で、自己の内面だけの問題には出来ない部分を多々含んでいる概念である。レジリエンスや、あるいは、よくいわれるセルフエフィカシー、他にもユーモアや楽観性といったストレス対処に関わる力は、個人の内面の力のみに光を当てている。後者はいわば欧米的な発想で、前者つまりSOCというのは環境も捉えている東洋的な発想の概念なのかもしれない。これは提唱者のAntonovskyも言っていた話だ」というような回答をすることが多いようにも思います。


上記の回答では、その場では説得力はあるとは思うのですが、よくよく考えてみると実際に各理論を細かく検討するとどうなのか、理論的にはアバウトな感じも否めませんと常々思ってはいますが、こう答えるほかなく。。。
しかし、実際に研究の世界ではどのようなことが言われているのでしょうか。

事実、SOCは環境も含んだ非常に幅広い概念で、coherentの感覚、という名前からもわかるように、自己の内部と外界との統合と結合の感覚を指しています。こうした点を踏まえたうえで、ネオ・フロイト派のユングやフロムの研究やコバサのhardiness personalityと類似していると、Lazarusも「stress, appraisal, and coping(日本語版では『ストレス心理学』)」の中で指摘しています。

こうした類似のストレスに強い力概念として、positive psychology分野での概念が有名で、こうした類似概念との違いを追い求めて、聖路加看護大学で行っているpositive psychology研究会に時々参加しています。(http://www.geocities.jp/kazu_hiro/positivepsychology/index.html)そこで報告したAlmedom AM の論文(Journal of Loss and Trauma, 10:253-265, 2005)では、結局のところ類似のものである、としているようです。(この論文の大意は以下です)
20070124SOC&resilience.pdf 直

ただ、SOCを検討する際には、いくつかあるモノのうちなぜSOCを扱うのか、という理由が必要になってきます。

私個人としては、その中で、1980年代に提唱されたもっとも古い概念の一つではありますが、定義やモデルが極めて厳密に作成されていて、異なった定義や測度を主張する研究者が出ていない、統一した見解を持っている概念で、近年もっとも多くの研究がおこなわれており、増加もしている概念、という点なのかなと、思っています。

IUHPE国際会議でも、Lindstrom氏の報告があり、resilienceとの違いについて言及していました。彼らも、概念としては類似と認めていますが、私の考えと同様に、resilienceは多様な定義、測度が存在している一方でSOCの方は定義が定まっているというようなことを言っていました。
resilienceは、「resilience」という言葉が先行してしまって、QOLのように、人によって定義がまちまちになっていて、多種多様のスケールが存在している印象です。