公衆衛生学会の自由集会「健康生成論とストレス対処力概念SOCの学習・交流会」を終えて

10月19日に公衆衛生学会の自由集会が行われました。話題提供は山崎先生のSOCの具象化研究に関するもの、久地井さんより、市民調査におけるSOCとSRHとの関係に関するもの、私から、職場環境とSOCに関するものの3つが行われ、その後自由討論になりました。
テーマについては、先日の記事にあります。
http://d.hatena.ne.jp/ttogari-tky/20111008/1318071469

私の報告は、ここ1年くらいパネル調査データを用いて検討している職場環境とSOCとの因果関係に関するデータ解析の結果をダイジェストでまとめて報告するというもので、ヨーロッパの研究では、SOCが原因で環境評価が結果という形に,想定とは逆の形で出ていることが多いこの関係を、我が国のデータではどのようなものか評価した3つの分析結果を報告しました。一つは、1年間の追跡、もう一つは、5月の保健医療社会学会で報告した3時点の潜在曲線モデルで報告したもの、そして、つい先日分析を行った、2年おき3時点のcross-laggedモデルの結果の3つを一挙に報告しました。
結論としては、環境が原因、SOCは結果、という向きが最もあてはまりが良いというものでありました。少なくとも、今回扱った縦断データ(社研パネル調査)では、この因果関係は間違いないことがいえそうです。
問題は今回扱った変数が3項目版であるので、13項目版で再現したいということ、そして、成人前期のみが対象で、壮年期においても成り立つのかどうか、というところであろうと思います。すくなくとも否定的な結果が北欧の研究で複数出ているので、それをひっくり返すには、もう少しデータが必要であろうかと思います。研究の蓄積は必要です。
とはいえ、環境によってSOCが左右される可能性について、これまでの仮説の段階から、実証の段階に大きく進んで来ています。次の段階は介入ということになって来そうです。自由集会には日本福祉大の近藤克則先生がいらして、SOCへの介入の可能性について質問をされていました。近藤先生は、SOCの変化には周囲に対する認知レベルでの変化が必要なのではないかと言っておられました。山崎先生が取り組まれているCDSMPでも集団でのディスカッションを通じてそれぞれの認知の変化が促されSOCも高まったという報告をしていたことがあるのですが、まさにそれと同じ考えをお持ちのようでした。その一方で、私が述べたのはSOCは一朝一夕では変わらないということでした。つまり、SOCは少しずつその認知的変化を生活の中で確かめながら自分のものにしていくプロセスが必要で、そのためには環境自体の役割、例えば、失業する心配がなかったり、時間的業務的な裁量があったり、支えてくれる人やモノ、カネが周囲にあったり、こうした良好な環境下にいるということがその前提になっているのではないかと思いました。環境のアプローチと認知的な変化を促すアプローチの両者が介入には必要であろうということになると思います。
となると環境はどのようなものを用意すれば良いのか、細かく見ていき、環境アセスメントできることが必要ですし、そのツールも必要でしょう。また、認知的変化を促すためのプログラムもまた健康生成論的に組み立てていくことが必要でしょう。
山崎先生や近藤先生は介入の方に非常に興味をもっているようでした。私自身もとてもSOCへの介入には興味があるのですが、今現在抱え込んでいる多くのデータから、心理社会的環境とSOCとの関係性についての検討、あとはSOCの適応に対する予測性について、もう少しエビデンスを積み上げていかねばならないとも思っており、しばらくは調査データの解析に勤しんで論文を書いていかねばならないと思っています。