思春期(学童期)向けSOCスケールについて

思春期用SOCスケールについての質問が健康教育学会で出ていました。SOCスケールは思春期、特に小学生の段階で十分に測定ができる者なのかということです。その時の論点は、そもそもSOCスケール自体、小学生に適用することが難しく、本当に測定できているのか、というような質問でした。
回答としては、その通りですが、小学生に適用するには一部の項目で不適である。また一部の項目は内容としては問題ないが表現的に解読できない可能性がある。従って、一部の項目については全面改訂し、一部の表現を平易に書き直した、ということになります。

何年か前に岡山県立大の坂野先生と山崎先生と思春期向けSOCスケールの開発を行いました。現在のSOC13項目あるいは29項目版のSOCスケールでは、表現が難しい部分があるため、小学生でも測定ができるよう修正を施す必要があるのではないかということになったためです。元々は当時長崎シーボルト大学の小林美智子先生とそこの修論生の林さんとがこの研究をなされていて、我々の方でお手伝いをしたのが始まりです。その後に坂野先生が独自に調査を行い、スケール開発を進めていまして、私もお手伝いで参加させていただいた形です。

具体的な修正の例を見ていきますと、例えば、
「今まであなたの人生には、明確な目標や目的は全くなかったーとても明確な目標や目的があった」
という項目は、全く持って小学生に回答してもらうのは難しいことが考えられます。小学生に「あなたの人生」について聞くのは、認知発達のレベルでもばらつきがありますし、そもそも人生を語るほど長くは生きていないですし。ちなみにこれは有意味感の項目です。
SOCスケールの各項目には、3つの下位概念(有意味感、把握可能感、処理可能感)のほかに、複数のファセットと呼ばれる側面を持っています。その中の一つに、時間(過去、現在、未来)のファセットがあります。この項目は過去の側面をとっていますので、過去をあまり持たない小学生には、過去の問題でなく、未来の側面に切り替えれば良い訳です。そこで、少しアレンジをして、
将来のあなたは、日々の出来事をどのように感じながら過ごしていると思いますか?
という質問に変えました。
しかし、大人用のものでも十分に答えてもらえそうな質問もあります。例えば、
「あなたはあてにしていた人にがっかりさせられたことはありますか?」
などは、そのまま使っていますし、いろいろ異論もあるかもしれませんが、
「どんな強い人でも、ときには「自分はダメな人間だ」と感じることがあるものです。あなたは、これまで「自分はダメな人間だ」と感じたことがありますか?」
もそのまま使うことにしています。余談ですが、この質問は、誘導的な質問であるとか、心理尺度としてはいかがな者かと良く言われる質問です。ただ、前半の、「どんな強い人でも、ときには「自分はダメな人間だ」と感じることがあるものです。」がなくて、「あなたは、これまで「自分はダメな人間だ」と感じたことがありますか?」だけで正確に測定ができるでしょうか。長い質問文は良くない質問文であるという指摘であれば否めない事実です。単純に長いという点ではこの項目の質については高くないことを認めざるを得ないのですが、前半の一文がついていることによって、後半の文が持つ社会的望ましさバイアスの影響を考慮することになるので、質を保証していることになります。後半だけの質問項目よりも、遥かに的確に測定できているものとおもわれます。

上記は一例なのですが、ほかの項目でも、やや漢語的表現が多めなSOCスケールですので、小学生にわかりやすいよう、平易に書き直している項目もあります。

坂野先生の方でスケール開発の調査を繰り返していて、学会発表も行っているようです。論文の方は、何年か前に学校保健研究に乗っていたように思いますが、さらに修正をしたものを現在検討しています。